震えるような1秒。
予感はしていた。多分、ここで逢えるって。
夏の最期に訪れた、震えるような幸せ。
ほんの数秒、ほんの数秒の。
冠雪のない富士が見えるためには、いろんな条件が必要。夏の温度が低い朝の、わずか数十分。
「おはよう!見えるよ!」
いつもより早くやってきた君に声をかけた僕。2人で窓辺に駆け寄って、ブラインドの隙間から2人で覗いたその先に、冠雪のない、真っ黒な富士。
「見えた!」と君が叫んで、2人で目を合わせて笑顔になった。
時間にすれば、ほんの数秒。
ほんの数秒の、震えるような幸せな時間。
あの瞬間、まるで時間が止まったように、2人は窓辺の絵になったに違いない。
また君に、かけがえのない時間を、もらった。
ありがとう。
そのとき何かが、僕の頰を撫でたような気がした。
そっと撫でたような、気がした。