誤解と深層(中編)

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駐車場に車を止めて、竹林のある寺院に向かう。

少し汗ばむ陽射しの鎌倉。

心地よい、キミとの距離。

 

 寺院の近くの駐車場は止められないと戻るのが大変。少し離れた駐車場から鎌倉の小路を二人で進む。タブレットには寺院まで7分と書かれている。そんなに遠くない。

 細い歩道を暫し進む。「結構歩きましたね」と彼女。それでも不機嫌にならずに二人で進むとようやく到着。なんでこんなにかかるのだとよく見たら「車で7分」の距離を二人で延々と歩いてきたことが判明して大笑い。「帰りはタクシーで帰りましょう」と言って寺院の竹林へ。

 過日の台風で倒竹があったらしく、修繕の真っただ中だったけれど、荘厳たる姿は健在。暫し二人、無言で鑑賞。そのあと抹茶の予定だったけど、締め切りに間に合わなかった。「時間を読み間違えた、忝い」と彼女に詫びて、寺院へ向かう坂の途中にあったカフェでお茶することにした。

  少し汗ばんだあとのお茶で和んだところで、僕ら自身の話となった。ボクは話した。離婚のこと、娘がいること、そして、ボクが若くはないということ。いつかは必ず通る道。これで相手が引くなら先はない。

 

 「もう一度生き抜くんだ、人生を、生きるんだ、もう一度」

  そう話したとき、彼女は一度もたじろくことなく、目を逸らさず話を聴いてくれた。

 

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 「バスが来ますよ!」 

   タクシーを拾おうとしたら、彼女がバス停に僕を誘った。程なく鎌倉駅行きのバスが到着、僕は整理券を取り、彼女は慣れた手つきでPASMOをリーダーにタッチ。前後の席に座って鎌倉駅へ移動。僕の背後に座った彼女の微笑み、ちょこんと座った愛らしい姿。あんな話をした後のこの姿に、僕はどれ程安堵しただろうか。