誤解と深層(前編)

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今だから理解出来た。

ボクは彼女を、誤解していた。

ボクは彼女の、その深層を読み解けなかったのだ。

 

 駅近くの大学病院の入口前の待ち合わせ場所に現れた彼女は、明らかにいつもと違う装いで現れた。鎌倉を散歩するのに相応しい、少し地味目の、でも愛らしい装い。そして愛らしい眼鏡で現れた。目が合ってすぐにいろんな話をしながら車に乗り込み、西新宿から一路葉山へ向かう。

 助手席に座った彼女の姿は大人の女性らしい、そして愛らしい佇まいでボクの傍らにいる。その姿にボクは一瞬で心が癒された。日曜日の鎌倉行きは正直その場の思い付きで渋滞のことなんかなにも考えていなかったけど、この日はどういうわけか行く先行く先の道路がガラガラ。予定よりも一時間も早く葉山のラ・マーレに到着。

 先着順の名簿に名前を書いて、彼女と2人で葉山マリーナへ散歩に出かける。470級のディンキーが次々に出帆していく光景を眺めながらヨットの話で盛り上がりあっという間にランチの時間。

 「一番奥へどうぞ」と通された席は出帆するヨットと向こうに江ノ島が観える湘南の海岸を一望できる席だった。魚か肉かなかなか選べないため彼女はステーキをリクエストし、ボクはブイヤベース。結局両方2人前頼んだ。他愛もない話をしながらゆっくりと時間が過ぎていく。日曜日だというのにこの日の134号はどういうわけかガラガラ。「のんびり鎌倉に向かおう」と話をして、ミントティーを飲みながら海を眺めていると、大学のヨット部のディンキーが一斉に何艇も目の前から出帆していく。「あれ、私の出身大学のヨットですよ!」と彼女が笑顔で言った。

 3時間もゆったりと昼食の時間を過ごし、ボクと彼女は134号を西へ、数々の映画で何度も観た材木座海岸に抜けるトンネルからの景色を観ながら程なく鎌倉へ。駐車場を見つけて竹林へは徒歩で向かう。(続)