ほんの数秒の。

いまでも覚えている。あのときの言葉。

時間にすればほんの数秒の、

一度も聞いたことがない言葉。

 

 

「何かお手伝いできることは、ありませんか?」

  

 

 その言葉は、人生の中で何度も放つことが出来る言葉ではない。

 

 確かに仕事とか、何かしらの利害が伴えば、この言葉の意味はどうということは、ない。が、何の利害も無くこの言葉を放つことが出来る人間など、そうそういるものでは、ない。もちろんボクも、利害が絡まずにこれまでの人生でこの言葉を誰かに放ったことは殆んど、いや、まったくないかもしれない。

 

  怪我をして左腕が不自由な僕を見て、心配をかけて、そして放たれた、放てば何秒もかからない、ほんの数秒の言葉を、何の利害のない僕にかけたのだ。耳にした瞬間、想定外の言葉をかけられたことに動揺した。何日も、何晩も。全く知らない仲じゃない。でも一緒に仕事をしているわけでもないし、何らかの交流があるというわけでもない。でもその人は言ったのだ。

 

 ボクはこの言葉の重みをとても大事にした。もちろん、その人がどんな意図ではなしたかなどどうでもいい。ボクはこの人に、誰よりも真摯に向き合わなければならない。そう思ったのだ。